アジア諸国の最低賃金引き上げに、日本企業はどう立ち向かうべきか?

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     今日は日本経済新聞の記事を取り上げ「アジア諸国の最低賃金引き上げに、日本企業はどう立ち向かうべきか?」と題して論説したいと思います。

     

     下記が日本経済新聞の記事です。

    『日本経済新聞 2018/10/28 01:31 最低賃金上げ、アジア席巻「人気取り政策」外資警戒

     東南アジアの各国が法令で定める最低賃金を大きく引き上げている。新興国の賃上げは消費の市場を広げるが、生産性の伸びを上回る賃上げは外資の投資を鈍らせる恐れがある。自国民の優遇を強める政権の姿勢が背景にあり、労働力が安価なカンボジアの最低賃金も数年後にはマレーシアなどに追いつく。新興国のポピュリズム的な政策を前に、日本企業もアジア進出の戦略見直しを迫られる。

     輸出品の6割を縫製業が占め、日本記号の進出も続くカンボジア。アートネイチャーは2017年に、現地のかつら縫製工場を香港企業に売却した。新設からわずか3年で方針転換した要因の一つが、人件費の上昇だ。

     縫製業や製靴業に適用する18年の最低賃金は前年比11.1%増の月170ドル(約1万9千円)。12年の3倍近くに上がった。フン・セン首相は3月、23年までに最低賃金を月250ドルに上げると表明。実現すれば、東南アジア諸国連合(ASEAN)では早く成長したマレーシアと並ぶ。

     カンボジアでは2月の上院選、7月の国民議会選で与党カンボジア人民党(CPP)がすべての議席を獲得した。一党独裁となったフン・セン政権が進めるポピュリズム政策が、賃金を押し上げる。

     ミャンマーでも5月から最低賃金が33%上がり、1日につき4800チャット(約350円、8時間労働)となった。海外ブランドの縫製請負は人件費が原価の7〜8割を占める。ミャンマー縫製業者協会のミン・ソー会長によると、約550カ所の縫製工場のうち10カ所前後がコスト高などで閉鎖に追い込まれた。

     アウン・サン・スー・チー国家顧問が率いる国民民主連盟(NLD)は20年に政権党として初めての総選挙を迎える。政権は半ば強権的に国民の生活水準を上げる政策に取り組むが、ミン・ソー会長は「工場の生産性が低く、賃上げが進めば多国との競争に勝てなくなる」と危惧する。

     最低賃金は国などの行政機関が定め、企業はその水準を守る必要がある。日本でもアジアでも位置づけは変わらない。貧しい人も多いアジアでの賃上げは購買力を向上させ、市場が拡大して先進国にも恩恵が及ぶ。だが、経済成長率や物価の伸びとかけ離れた賃上げは企業のコストを圧迫し、かえってアジアへの投資を鈍らせる恐れがある。

     日本企業も危機感を強めている。日本貿易振興機構(JETRO)によるアジア・オセアニアに進出した企業への調査では、18年の営業利益が悪化する理由に4割の企業が人件費の上昇と回答した。ミャンマーに進出する企業を支援するトラストベンチャーパートナーズの後藤信介代表は「生産性の向上を置き去りにしたまま賃金が上がっている」と指摘する。

     生産性の伸びに見合う賃上げを目指す動きはある。生産拠点として注目されたベトナムは15年に輸出額がインドネシアを抜き、最低賃金は11年比で2倍超になった。中国などと比べたコスト面の優位は薄れている。19年の最低賃金は前年比5.3%上昇の見通しで、16年まで続いた2桁の伸び率からは落ち着いた。

     一方で足元では多くの新興国が米国の利上げに伴う通貨安に見舞われている。ミャンマーなどは輸入に頼る日用品が値上がりすると、働く人から賃金上げの要望が強くなる。

     世界最貧国の一つであるラオスも18年は最低賃金を月額110万キップ(約1万5千円)に22%上げた。12年比では2倍だ。米利上げの影響で通貨安になり、輸入品が値上がりして物価が上がった。一党独裁が続くラオスでも、政権は国民が不満をためないことを重視する。賃上げをしなければ、労働者が他国に流出する懸念もある。

     マレーシアのマハティール新政権は19年1月、全国統一で最低賃金を引き上げる賃金の低い外国人労働者の増加がマレーシア人の給与を低く抑えているとみて、選挙で賃上げを公約していた。公約通りなら5年以内にさらに43%上がる。

     「世界的にポピュリズムの傾向が出ている」(野村総合研究所の木内登英氏)なかで、自国民を優遇する政策は賃上げに向かいやすい。だが生産性の向上が置き去りになれば「人手に頼る資源投入型の投資はいずれ行き詰まる」(みずほ総合研究所の小林公司氏)。

     アジアの成長もポピュリズム的な政策が壁になるのか。世界経済の不確実性は、アジアでも着実に広がっている。(中村結、ヤンゴン=新田裕一、ハノイ=大西智也)』

     

     

     このニュースを見て思うこと。それは、いい加減に人を安く使って利益を出すという発想を、そろそろ止めませんか?ということです。東南アジア諸国の各国が法令で最低賃金を上げるということ自体、国家の主権で行うことであり、それをポピュリズムなどと批判することは、内政干渉に他なりません。

     

     日本の真の国益を考えた場合、海外で低賃金の労働者を安く使って、そこで製造した製品を逆輸入で日本に輸入するということが、どれだけ国益を損ねているのか?と考えます。

     

     その一方、上記記事に記載の通り、野村総合研究所の方のコメントが出ていますが、”ポピュリズム”という言葉を使い、ネガティブにコメントしています。

     

     グローバリストと呼ばれる人々の発想では、米国のトランプ大統領や英国のメイ首相やフランスのマリーヌルペンといった人々に対して、過激なナショナリズムを醸成する人たちというレッテル貼りをすることが多い。2年前に私が楽天証券の主催のセミナーで竹中平蔵氏が講演したとき、ちょうどブレグジットが話題になっていまして、「過激なナショナリズム」という言葉を使っていました。

     

     グローバリストが称賛する企業には、ニトリやファーストリテイリングといった企業を称賛することが多いと思います。

     

     とはいえ、日本の企業が海外に出なければ、コスト競争力で負けるという論説は間違っています。

     

     理由は単位当たり労働コストという考え方があるからです。

     

     単位当たり労働コストというものを考えてみましょう。

     

     例えば中国では、一人当たりの人件費が100円だったとして、一人が鉛筆を100本製造できるとしましょう。この場合の中国の単位当たり労働コストはいくらになるか?

     

     100円÷100本=1円 となります。

     

     もし日本では、一人当たり人件費が1000円だったとして、一人が鉛筆を10000本製造できるとしましょう。この場合の日本の単位当たり労働コストはいくらになるか?

     

     1000円÷10000本=0.1円 となります。

     

     上記をみて、どう思われるでしょうか?

     

     日本人は人件費だけをみれば、中国の10倍です。単純に人件費100円と1000円であれば、1000円の日本は人件費のコストが高いといえます。

     

     ところが、鉛筆を10000本製造できるとなると、鉛筆一本当たりの労働コストは0.1円と十分の1になります。

     

     では、日本の方が0.1円と中国の1円よりも単位労働コストが安いのはなぜでしょうか?

     

     絶対にありえませんが、生物学的に物理学的に、例えば日本人は千手観音菩薩のように手と足が10本余計にあって、中国人は手と足が2本ずつだったということではありません。

     

     考えられるのは、日本は設備投資で最新鋭の機械を導入し、教育レベルが高く、能力開発費も十分に蓄積されているということ以外にありえません。教育レベルという点では、国家がサービスとして提供する義務教育も含まれます。つまり資本をそれだけ投下した投資(国家が提供する義務教育を含む投資)の蓄積の差ともいえるのです。

     

     そのため、日本人の人件費が、たとえ東南アジア諸国の人々の賃金に比べて10倍高かったとしても、企業が最新鋭の設備投資を行い、能力開発費などの人材投資にお金を投ずることで、単位当たり労働コストは逆に10分の1にまで下げることができるのです。

     

     コストで10倍差が付けば、海上輸送などのロジスティクスの費用(日本から海外に輸出する費用)のハンデがあっても、日本で製造した場合であったとしても十分にコストで勝つことが可能です。

     

     単位当たり労働コストの格差は、別に10倍が最高と決まっているわけではありません。より従業員を教育し、最新鋭の設備を導入することで、20倍、30倍と差を付けることも可能です。

     

     ところがこうしたことを知らずしてか、日本企業は海外の安い人件費を求め、日本で工場を閉鎖して、海外に工場を作るということをやってきました。当然海外の工場では、現地の人々を安く雇い、品質を日本国内に勝るとも劣らないくらいにまでレベルを引き上げるということをやります。この場合、本来日本人が得るべき雇用・所得を得られず、海外の人々が雇用・所得を得ることとなります。

     

     とはいえ、日本経済新聞の記事の通り、東南アジアの発展途上国でも、自らの主権で自らの国民の生活レベルを上げようと最低賃金の引き上げをする旨のトレンドが明確になってきました。

     

     いい加減に日本企業も、人を安く使うという発想を捨て、むしろ日本に戻って日本に工場を作り、設備投資や日本人従業員に人材投資をすることで単位労働コストを引き下げていくといった取り組みをする必要があるのではないでしょうか?

     

     

     というわけで今日は「アジア諸国の最低賃金引き上げに、日本企業はどう立ち向かうべきか?」と題して論説しました。上述の設備投資や日本人従業員への能力開発費などの投資の成果が上がりやすい環境にするためには、デフレ脱却が必須です。モノ・サービスを値下げしなければ売れにくい状況では、投資しても成果が出にくいわけです。そのためにも政府はデフレ脱却を急ぐ必要があることを、改めて申し添えたいと思います。

     

     

    〜関連記事〜

    国家間・企業間における真の競争力とは?(「単位労働コスト」について)


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