プライマリーバランス黒字化目標導入という罪とは別のもう一つの罪

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     今日は「プライマリーバランス黒字化目標導入という罪とは別のもう一つの罪」と題して意見します。

     

    1.プライマリーバランス黒字化目標導入は、いつ?誰なのか?

    2.「最大概念」から「平均概念」に定義変更された潜在GDP

    3.デフレギャップが小さく見えるように細工されてしまった日本

     

    上記の順でご説明し、潜在GDPの定義変更についてお話いたします。

     

     

    1.プライマリーバランス黒字化目標導入は、いつ?誰なのか?

     

     私はプライマリーバランス黒字化目標に対して批判的な立場です。デフレ脱却のためには、「国債増刷」と「財政出動」のセットの政策以外に、有効な方法がありません。

     

     もし、国家の財政運営を家計簿や企業経営と同じように考えて、「政府の政策は税収の範囲内で行うべき!」という人が居られれば、それはGDP3面等価の原則を知らない人でしょう。知っていても理解していない人でしょう。

     なぜならば、支出=生産=所得であって、支出するのは、家計(個人)でなくても企業(法人)でなくてもよく、政府が支出するでも全く問題がないからです。実際、内閣府のホームページで公表されるGDPの1次速報、2次速報、確報値では、政府最終消費支出という項目があります。個人消費や企業設備投資の他に、公務員(警察官・消防官・救急隊・自衛隊・学校の先生・役所省庁職員など)の給料や公共事業投資もまた支出であることに変わりありません。

     

     国債を増刷してその財源を元に公務員を増やした結果、公務員に払う給料が増えた場合、政府支出増=政府サービス(医療・介護・防衛・防犯・災害救助・教育などなど)の生産増加=公務員の所得増加となりまして、経済成長(GDP拡大)に貢献するのです。

     

     さて、そもそもこのプライマリーバランス黒字化を導入されたのはいつか?そしてそれは誰が主導したのか?2001年に竹中平蔵氏がプライマリーバランス黒字化を言い出しました。その結果、日本は景気が悪くなって財政出動をしなければならない状況に陥ったとしても、財政出動ができなくなってしまったのです。

     

     「いや財政出動はできるでのは!」と思われる方、例えば介護や医療に財政出動することは可能です。現実は医療介護費は報酬削減されています。とはいえ、高齢化の進行によって医療費は増え続けており、医療介護費への財政出動は続いています。

     また2018年度の一般会計予算では、朝鮮半島情勢も影響して、防衛費は5兆1,911億円で1.3%増えています。とはいえ、1.3%の増額というのは実額にして500億程度です。

     最新鋭の戦闘機F35を1機購入するのに150億といわれています。従来の防衛費に加えてF35戦闘機を20機買おうとすれば、3000億円は必要という計算になります。

     

     財務省職員の発想は、伸びゆくものは抑制し、他の分野の支出を削減して、収入の範囲内に抑える。これこそ、家計簿の発想、企業経営の発想です。

     

     このようにプライマリーバランス黒字化が導入によって、政府支出増という需要を抑制され続けてしまった結果、経済成長がストップしてしまったのです。

     

     例えば、小泉政権のとき、徹底的に削られたのは公共事業です。インフラ整備に留まらず科学技術費予算を含め、小泉純一郎政権下では、毎年7000億円ずつ削減しました。これは毎年7000億円ずつ需要を削減してきたことを意味します。

     

     1997年、橋本政権時に制定された構造改革基本法が制定されず、小泉政権での7000億円ずつの財政支出削減がされなかった場合、経済成長率が5%程度は成長できていたでしょう。その場合、5%成長が20年続いたとして、1997年時の一人当たりGDP42000ドルを起点として、1.05を20乗しますと、約12万ドルになります。これは日本人一人当たりの年収が直近のドル円為替レートに換算して約1300万円にまでなっていたことを意味します。

     

     橋本政権時の1997年の構造改革基本法制定と、2001年小泉政権のプライマリーバランス黒字化目標導入によって、いかに日本経済を低迷させてきたか?国益を損ね続けてきたか?よく理解ができるのではないでしょうか。

     

     もし日本がインフレ環境で、需要を削減する必要がある場合、プライマリーバランス黒字化も1手段としてあり得ます。「何が何でもプライマリーバランス黒字化していかなければ財政破綻が免れない」という論説は、家計簿の発想そのもので、国家の財政運営を考える場合は、明らかに間違っています。

     

     このようにプライマリーバランス黒字化目標を導入した竹中平蔵氏は罪深いと思うわけですが、彼が犯したもう1つの罪について指摘しておきたいと思います。

     

     

     

    2.「最大概念」から「平均概念」に定義変更された潜在GDP

     

     竹中平蔵氏が犯したもう一つの罪とは、デフレの主因であるデフレギャップ(「供給>需要」の状態)を算出するための潜在GDPが「最大概念」から「平均概念」に変えたことです。この変更により、デフレギャップが現実よりも小さく見えるようになってしまったのです。

     

     そしてこの変更によって、日本の需給ギャップが「インフレギャップが計算できる」という現実的にあり得ない状況になっています。

     

     2018/03/09の産経新聞の記事を紹介します。

    『産経新聞 2018/03/09 29年の需給ギャップ、9年ぶりプラス デフレ脱却判断に環境整う

    日本経済の需給の差を示す平成29年の需給ギャップが0.4%となり、リーマン・ショックの起きた20年以来9年ぶりに、需要が供給を上回る「プラス」に転じたことが18日、分かった。安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」を追い風に、消費や設備投資といった需要の回復が進んだためだ。政府によるデフレ脱却判断の環境が整いつつあり、市場の期待も高まる。

     試算は、今月8日に29年10〜12月期の国内総生産(GDP)改定値が発表され、全4四半期のデータが出そろったことを踏まえて内閣府が行った。29年の実質GDPは531兆4042億円で、供給力を示す潜在GDPは529兆円程度と推計した。この結果、需給ギャップは28年のマイナス0.3%からプラスに転じた。

     需給ギャップは、リーマン・ショックの影響による景気後退で21年にマイナス5.1%と大きく落ち込んだ。その後もマイナスが続いたが、24年12月に第2次安倍政権が発足すると、日銀の大規模な金融緩和策で円安、株高がもたらされて輸出が増加、企業業績が改善し設備投資や個人消費が回復に向かった。25年以降は、マイナス幅が1%未満に縮小していた。(後略)』

     

     

     上記記事は、需給ギャップが9年ぶりにプラスになったということで、デフレ脱却を宣言するか?判断の環境が整ったとされる記事です。需給ギャップという言葉は聞きなれないかもしれませんが、需給ギャップ=デフレギャップとご理解ください。

     

     デフレギャップとは、「需要<供給」の状態における「供給−需要」の大きさです。一方でインフレギャップとは、「需要>供給」の状態における「需要−供給」の大きさです。

     

     デフレギャップ、インフレギャップは、いずれも概念図で説明することは可能なのですが、論理的にインフレギャップを計算することは不可能です。

     

     下記は内閣府の試算を元に作成された産経新聞の記事から抜粋したものです。

     

    <需給ギャップの推移>

    (出典:産経新聞の記事から引用)

     

     

     デフレ・インフレを判断する指標としては、

    ●GDPデフレーターがプラス2%以上を継続的に推移していること

    ●コアコアCPI(生鮮食品・エネルギーの価格変動を除く消費者物価指数)が2%以上を継続的に推移していること

    ●実質GDPの年換算成長率が2%以上を継続に推移していること

     というように、上述が複数組み合わさった場合に、デフレから脱却しているという目安になります。

     

     もう一つ、デフレ・インフレを判断する指標の中に、需給ギャップと呼ばれるものがあります。本ブログでもインフレギャップ、デフレギャップという概念をご説明することがありますが、あくまでも概念図として説明しています。

     

     何が言いたいか?といえば、インフレギャップというのは、本来概念でしか説明ができず、論理的に計算して数値を公表することはできないということです。

     

     インフレギャップ、デフレギャップは、いずれも概念図で説明することは可能です。

     

    <デフレギャップの概念図>

     

    <インフレギャップの概念図>

     

     

     上記の図の通り、デフレギャップは「潜在GDP>名目GDP」の状態におけるギャップを指します。インフレギャップは「名目GDP>潜在GDP」の状態におけるギャップを指します。

     

     インフレギャップがプラスになったという産経新聞の記事は、「インフレギャップが計算された」ということになります。

     

     この「インフレギャップが計算される」というのは、実はあり得ない話です。その理由が、「潜在GDP=本来の供給能力」の定義にあるのです。

     

     

     

    3.デフレギャップが小さく見えるように細工されてしまった日本

     

     従来の潜在GDPの定義は、失業者が「完全雇用」状態で、国内の全ての設備がフル稼働した際に生産可能なGDPとされていました。即ち、「最大概念の潜在GDP」だったのです。国内の全ての工場や人員などのリソースが稼働した時点のGDPと、現実に統計された名目GDPとの差がデフレギャップだったのです。

     

     ところが、竹中平蔵氏が「潜在GDP」定義を、「過去の長期トレンドで生産可能なGDP」という「平均概念」のGDPに変更されてしまいました。

     即ち「平均概念」という定義変更によって、「完全雇用」状態ではなく、「過去の失業者の平均」時点でのGDPに変更されてしまったのです。

     

    <従来の「最大概念」の潜在GDPと名目GDPを元にしたデフレギャップのイメージ>

     

    <「平均概念」に変えられた潜在GDPと名目GDPを元にしたデフレギャップのイメージ>

     

     

     産経新聞の記事では、デフレギャップがプラスになったと報じられており、内閣府の資料が元になっています。即ち内閣府もまた潜在GDPを過去の長期トレンドで生産可能なGDPという定義で、指標発表しているのです。

     

     ここからは、ぜひ頭を柔らかくしてお読みいただきたいのですが、繰り返し申し上げる通り、デフレギャップ、インフレギャップいずれも概念を説明することは可能です。

     

     数値としてインフレギャップが計算されるということは、何を意味するのか?総需要が本来の供給能力を上回ったという話になってしまうのです。

     

     これはよくよく考えれば、計算できるはずがありません。何しろ総需要が供給能力を上回るということは、「生産することが不可能な物・サービスに対して、消費・投資として支出された」ということになるのです。

     

     この世の中、「生産されない」製品・サービスを購入することは物理的に不可能な話です。

     

     内閣府は潜在GDPについて「経済の過去のトレンドからみて平均的な水準で生産要素を投入したときに実現可能なGDP」と定義しています。これは平均概念の潜在GDPそのものです。

     即ち、内閣府の潜在GDPは、現実の日本国の「本来の供給能力(最大概念の供給能力)」でもなんでもないことを表していることになります。

     

     結果として、日本はデフレギャップではなくインフレギャップが計算されてしまい、デフレ脱却か?などと新聞の見出しに出てしまうことになるのです。

     

     

     というわけで、今日は竹中平蔵氏の罪ということで、プライマリーバランス黒字化導入以外にもう一つ、潜在GDPの定義変更ということを指摘させていただきました。

     現時点でも日銀や内閣府が潜在GDPについて「平均概念」を使い続けている以上、デフレギャップが小さく見え、デフレという需要不足の経済現象が「軽く見える」という結果を招いています。それどころか、デフレギャップがプラスという生産することが不可能な物・サービスまで買ったことになっているという現実的にあり得ない状態を、何ら疑問もなく報じられているのが今の日本です。多くの人が思考停止に陥り、漫然とテレビ新聞の報道を目にして耳にしていますと、騙されてしまう国民が増えます。

     竹中平蔵氏が犯した罪に対して、私たちは何をすべきでしょうか?私は、経世済民を目的とした政策が施行されるよう、多くの日本国民が経済の正しい知識を知り、知見を高めていただくことで世論を形成していくしかないものと考えます。

     少しでも本ブログの読者の皆さまには、テレビ新聞の記事と実際は異なるという現実を知っていただきたいと思うのであります。


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