生乳流通改革という欺瞞と、イギリスのミルク・マーケティング・ボード

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    JUGEMテーマ:農協

     

     今日は規制緩和に関連し、食料安全保障問題関連で、生乳の流通改革について意見します。

     

     以下は昨年の秋口に報道された日本経済新聞の記事です。

    『2016/9/13 18:58 日本経済新聞 生乳の流通改革、今秋までに結論 規制改革会議の農業部会

    政府の規制改革推進会議は13日、都内で農業ワーキンググループ(作業部会)の初会合を開いた。バターや牛乳の原料となる生乳の流通改革について、今秋までに結論を出す方針を確認。肥料やトラクターなど農業資材の価格引き下げに向けた具体策も秋までにまとめる。

     作業部会は金丸恭文フューチャー会長兼社長、飯田泰之明治大准教授ら推進会議の委員のほか、酪農家やコメ農家など計10人で構成。今後、月に3回程度のペースで会議を開く。

     「指定団体」がほぼ独占する生乳の流通制度をめぐっては、今年5月の答申で「抜本的改革を検討」と明記。今後、関係者へのヒアリングなどを経て具体策をまとめる。山本幸三規制改革相は会合で「バター不足が頻繁に起こることはおかしい。どこに問題があるかを追求し改善してほしい」と語った。』 

     

     現在の日本においては、生乳は指定農協団体が集荷・販売を独占し、生産量や用途を決めています。この制度を変更して、酪農家が生産を増やす機会などを増やし、経営努力の意欲向上を促すという「お題目」になっています。

     端的に言えば、指定農協団体の「解体」を図るという話です。

     

     

     

    1.協同組合の成り立ち

     

     このテーマで、まず私たちが理解しなければならないのは、「協同組合」の成り立ちです。

     世界史上、初めて成功した「協同組合」は、産業革命後のイギリスで誕生したロッチデール先駆者協同組合です。

     産業革命により、工場における大量生産が主流となったイギリスでは、製造業で働く労働者が劣悪な雇用環境と貧困に喘いでいました。さらには、動労者が日常的に購入する食料は衣料など、生活必需品の品質悪化や価格高騰に悩まされていました。

     

     当時は労働者側に販売店の選択肢がほとんどなかったため、質が悪く割高な商品だったとしても、労働者たちは購入せざるを得なかったのです。

     個別に見れば、「小さな買い手」である労働者たちは、大手の小売業者の巨大なセリングパワーに対し、個々の人で対抗することはできませんでした。そこで、個々では「小さな買い手」に過ぎない労働者を束ねることで、バイイングパワーを増して、既存の大手小売業者に対抗するための協同組合が誕生したのです。

     

     1844年12月21日、ランカシャーのロッチデールに「個別の労働者の購買力」を統合することで、購買力を強化し、大手小売商に対抗することを可能にする「生活協同組合」の店舗が開かれました。協同組合運動の先駆的存在となった「ロッチデール先駆者協同組合」の誕生です。

     要するに「小さな買い手」「小さな生産者」が、大資本のセリングパワーやバイイングパワーに対抗し、損を強いられることがないように個を束ねることで相互扶助を図るのが「協同組合」なのであります。農協にしろ、生協にしろ、全て同じ発想です。

     

     この歴史経緯が分かれば、指定農協団体とは、「小さな生産者」である酪農家のパワーを束ねることで、大手流通・大手小売のバイイングパワーに対抗していることが理解できるでしょう。大手流通・大手小売と対抗できる資金力がある酪農家は、農協に属さず、個で対応すればいいのですが、すべての酪農家がそのように資金力があって個で対応できるとは限りません。

     もし、指定農協団体の制度が解体されれば、酪農家は個別にイオンなどの大手流通・小売と取引をすることになり、「確実に」生乳を買いたたかれることになります。結果、資本力に乏しい弱い酪農家から廃業していくことになります。

     

     

     

    2.指定団体廃止の理論的な間違い

     

     生乳市場では、経済学的にも規制緩和は正当化されません。規制緩和が正当化されるのは、市場のプレイヤーが市場支配力を持たない場合であり、市場支配力を持つ市場では、規制緩和は不公正な価格形成を助長します。

     もやし生産者の悲鳴について、このブロクでも取り上げましたが、今でも大手流通のイオンやイトーヨーカドーといった小売りに「買いたたかれている」にもかかわらず、「対等な競争条件」の実現のために、生産者に与えられた共販の独占禁止法適用除外をやめるべきだ!という議論は、小売りをさらに有利にして市場価格の歪みを是正するどころかさらに悪化させることになります。大手小売りの「不当廉売」と「優越的地位の濫用」こそ、独占禁止法の問題とすべきです。

     もともと指定団体制度による共販が行われていても生産者は、大手流通業者を前に「買いたたかれている」現状があります。デフレで小売業も消費者から値下げ圧力を受けているから。もし、指定団体制度を解体すれば、事態がさらに悪化することは目に見えています。

     

     イギリスにおいて1994年にミルク・マーケティング・ボード(=MMB)の解体が行われ、その後のイギリスの生乳市場における酪農生産者組織、多国籍乳業、大手スーパーなどの動向が示唆しています。協同組合として1933年に設立され、イギリスの酪農家を相互扶助の概念で守ってきました。イギリスでは、ミルク・マーケティング・ボード解体後、任意組織の酪農協が結成されましたが、その酪農協は酪農家を結集できず、大手スーパーと連携した多国籍乳業メーカーとの直接契約により分断されていきました。

     酪農協からの脱退と分裂が進んで市場が競争的になっていく中で、2000年に乳製品が高騰した当時でも、イギリスの乳価だけが下落を続け、余乳の下限下支え価格のIMPE(EUのバター、脱脂粉乳介入価格見合い原料乳価)水準にほぼ張り付くようになりました。

     メーカー直接取引量は2009年には、大手スーパーのさらなる寡占化進行と、その大手スーパーと独占的な供給契約を締結している多国籍乳業メーカーの市場支配力が増大した結果、イギリス全生乳の70%超にまで増加しました。

     ミルク・マーケティング・ボードの独占性を問題視して解体しましたが、その結果、大手スーパーと多国籍乳業の独占的地位の拡大を許し、結果的に酪農家の手取り乳価の低迷に拍車をかけたというのが、イギリスの歴史の証明です。

     即ち、一方の市場支配力形成を弱めたことで、パワーバランスが極端に崩れてしまったのです。

     

     もし、指定団体を廃止してしまえば、買いたたくことで生産者にしわ寄せが来ます。生産者が苦しくなって生産が減れば、最後には大手スーパーなどの流通業界もビジネスができず、消費者も国産の牛乳が飲めなくなります。他国の牛乳は成長ホルモンが入っていたりしますが、私は国産の牛乳しか飲みたくありません。

     

     

     

     

    3.ミルクマーケットジャパン(=MMJ(株))のビジネスモデル

     

     テレビ東京で放映されたガイアの夜明けという番組において、指定団体制度が邪魔であり、自由化をすれば安いバターや牛乳が消費者に提供できるという趣旨の報道がなされました。

     もし、1994年のイギリスのMMB(ミルク・マーケティング・ボード)の解体と同様に、指定団体を廃止すれば、間違いなく生乳は買いたたかれ、酪農家の所得は減っていきます。酪農家が単体で巨大資本のイオンやイトーヨーカドーと価格交渉をして、勝てるはずがありません。酪農家が損をした分、大手流通と小売り側が儲かります。消費者も一時的に価格下落のメリットを受けますが、長期的には国内の生乳生産能力が低下し、食料安全保障弱体化というしっぺ返しを受けます。

     MMJ(株)のビジネスモデルは、指定団体制度による安定した乳価形成取引が前提となり、それをベースにして独自ブランド牛乳を高値で売りたいという酪農家の個別要求にこたえるビジネスです。いわば平均的な価格として乳価があり、それよりも高品質なものを高値で売りたいというニーズを組んで、MMJは高価格で買い取っているのです。

     仮に指定団体制度が廃止され、安定した乳価がなければ、たちまちMMJが大手小売業に買いたたかれる可能性があるわけです。デフレで消費者が安いものを望み、品質がいいものであっても値下げしないと売れないデフレ環境となれば、なおのこと買いたたかれるでしょう。

     結果、小規模酪農家は廃業を余儀なくされ、MMJ(株)と取引している大規模資本酪農家も利益が減ります。MMJ(株)のビジネスモデルは、指定団体制度が存在しているからこそ、成り立つビジネスモデルなのです。

     

     もちろん指定団体ではないMMJがバターを自社生産する工場を作ることなど、それ自体は立派です。特に加工用補助金が実質的に北海道専用となっていることから、今後この流れが進めば全国各地でのブランドバターなどの生産にも弾みがつくでしょう。

     しかしこれもまた、現在の日本の牛乳政策により、構造的なバターの高値が続いていることから成り立つ戦略です。万が一、バターへの補助金が増額されたり、輸入バターが大幅開放されるようなことがあれば、たちまち立ち行かなくなってしまうでしょう。
    何しろバターの国際価格は通常の国内価格の4分の1以下なのです。そしてその安さの原因の一つは各国の出している補助金です。

     海外の国が自国の酪農家を支援すべく、補助金を増額すれば、輸入価格は下がります。しかもTPPやEPAやFTAを締結して関税がかけられなくなれば、めちゃくちゃ安い輸入バターが大量に入ってくることになります。そうなったらMMJと、MMJと契約した酪農家のたどる道はどうなってしまうのでしょうか?想像していただきたく思います。

     

     

     というわけで、今日は生乳流通改革という名の指定団体制度の廃止については全くの欺瞞として反対するとともに、協同組合の歴史、近現代におけるイギリスのミルク・マーケティング・ボード廃止後のイギリスの酪農家の現状をお話ししました。

     私は、自由化ありきで、一方的な偏向報道をするマスコミについては、非常に憤りを覚えます。私の知人に農協関係者は存在しません。自らが食料安全保障について知見を深める中で、農協が果たしてきた役割について、あまりにも国民が知らなさすぎることについて、残念に思うのです。

     指定団体制度で、確かにバターは不足することはあるかもしれませんが、新鮮な国産の牛乳が飲めるのは、指定団体制度のおかげです。バターは輸入でもイイと思いますが、牛乳は液体で鮮度もあって保存がききませんので、国産100%であるべきだと私は思います。もちろん、価値観の問題もありますので、押し付けるつもりはありません。

     とはいえ、協同組合のコンセプトを理解した上で、議論を交わしていただきたいものと思うのです。


    コメント
    同じ内容を、三橋さんや鈴木教授の記事で読みました。農水省は規制改革会議に押されすぎですね。しっかりしてほしいです!
    • 富山の大学生
    • 2018/06/05 10:42 AM
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