私たちの税金で培った種苗の知見・ノウハウは国民の財産です!
JUGEMテーマ:日本の農業政策を考える。
先日、本ブログでモンサントという会社を取り上げ、種子法廃止法案について取り上げました。
(参照ブログ:”「主要農作物種子法」廃止法案可決”食料安全保障問題として報道しないマスコミに怒り!)
そして、先月の参議院本会議で、肥料や農業などの農業資材・流通加工分野の業界再編を促す、農業競争力強化支援法が与党などの賛成多数で可決成立いたしました。今日は改めて、農業競争力強化支援法と種子法廃止法が成立することで、私たちの生活にどのような影響があるか?について意見したいと思います。
農業白書によれば、農業の担い手不足が課題となっている中、農業法人の増加が大きな役割を果たし、新規就農者で言えば、6年ぶりに増加したとのこと。前年比13%増の65,030人で、平成21年以来6年ぶりの高水準になったとしています。
就農者数が増えたということはイイことと思いますが、その一方で「農業競争力強化支援法」が成立しました。
先日の種子法廃止法案と合わせ、これらの法律がどんな意味を持つか?考えていきたいと思います。
1.私たちの税金で培った種の知見・ノウハウを民間事業者へ提供?
政府が都道府県に予算を付けて、圃場における優良な種について、多様性で安価な形で生産できるように管理する責任を都道府県が背負うというのが種子法の概要です。
農家に対して、安くて多様性があって優良な種子を提供されているというのが今の状況なわけですが、その根拠法である種子法をいきなり廃止し、同時に1か月遅れで農業競争力強化支援法が成立しました。
この中に、目を疑うようなとんでもない条項が入っています。
(農業資材事業に係る事業環境の整備)
第八条 国は、良質かつ低廉な農業資材の供給を実現する上で必要な事業環境の整備のため、次に掲げる措置その他の措置を講ずるものとする。
一 農薬の登録その他の農業資材に係る規制について、農業資材の安全性を確保するための見直し、国際的な標準との調和を図るための見直しその他の当該規制を最新の科学的知見を踏まえた合理的なものとするための見直しを行うこと。
二 農業機械その他の農業資材の開発について、良質かつ低廉な農業資材の供給の実現に向けた開発の目標を設定するとともに、独立行政法人の試験研究機関、大学及び民間事業者の間の連携を促進すること。
三 農業資材であってその銘柄が著しく多数であるため銘柄ごとのその生産の規模が小さくその生産を行う事業者の生産性が低いものについて、地方公共団体又は農業者団体が行う当該農業資材の銘柄の数の増加と関連する基準の見直しその他の当該農業資材の銘柄の集約の取組を促進すること。
四 種子その他の種苗について、民間事業者が行う技術開発及び新品種の育成その他の種苗の生産及び供給を促進するとともに、独立行政法人の試験研究機関及び都道府県が有する種苗の生産に関する知見の民間事業者への提供を促進すること。
上記条文の白抜きした部分ですが、これが何を意味するか?
「種子法を廃止して都道府県が種苗の生産等の支援ができないようにし、さらにこれまで培った山ほどある知見を民間事業者に提供してください。」
ということです。因みに、個々で言う民間事業者は、一般農家ではなく、種苗メーカーやアグリバイオビジネス企業です。
しかも例によって外資規制がありません。条文の主旨は、これまで研究してきたこと、ノウハウ、いわば種子法という法律に基づいて私たちの税金で培ってきた知見を、国内企業だけではなく海外企業を含めた民間事業者に提供しなさいというのが主旨です。これでは、私たちの税金によって培ってきた食料安全保障の基本中の基本の種のノウハウ・知見を、米国の遺伝子組み換え作物の世界最大手のモンサント社にも提供できちゃいます。外資規制も掛かっていないのですから。
モンサント社は、遺伝子組み換え作物の種のシェアの90%以上を持ち、普通の種についても20%のシェアを持つ、超巨大企業です。
モンサントをはじめとするアグリバイオビジネス企業に、日本の各地域に富んだ種の知見が簡単に入手され、少し変えただけで特許が取られていく。
種が特許のビジネスに変わっていく。というより、それを促進させるために「種子法廃止」「農業競争力強化支援法」がセットで通ったということなのです。
2.今後の日本の農業はどうなるか?種(タネ)の価格が上昇していく・・・!
今後日本の農業はどうなっていくのでしょうか?まずいと思うのは、種の多様性が失われていくことです。
特許を持った特定の企業のビジネスとなって、少ない数の種子が流通していきます。それと合わせて遺伝子組み換え種子も流通していきます。結果、種の価格は上昇します。
アグリバイオビジネス企業が提供しているコメの種の価格は、種子法に基づいて都道府県から提供される種の約8倍くらいと言われています。
しかも、農家のほとんどは、都道府県から提供を受けているため、種の価格が安いということは、利益追求のアグリバイオビジネス企業にとって問題なわけです。アグリバイオビジネス企業にとっては、何としても価格を上げて利益を出したい。こうした背景があります。
食べるもの=安全保障であり、食糧安全保障です。防衛や災害や犯罪から身を守る以外に、食べ物も安全保障にかかわります。その根幹にかかわる「種(タネ)」、これまた電波や空気や土地と同様に公共財であり、国民の財産です。
それを「一部の特定の企業の特許ビジネスに換えますよ!」というのが、「種子法廃止」「農業競争力強化支援法」の真意です。
この犯人は誰でしょうか?私見ですが、規制改革推進会議だと思います。この会議のメンバー、ビジネスで新規参入したい人たちばかり。そこには利益追求が絶対で、そのためには売国になろうと、国益を損ねようと関係ありません!という考え方を持った人しかいないと思うのです。
例えば、農業のワーキンググループの中には、農業の素人しかいません。農業をやったことがない人たちばかりが議論し、本来で言えば、農協や消費者団体の人が居てしかるべきだけと思うのですが、メンバーには入っていません。しかも、国会議員も関与できず。それでいて農業に素人の民間人が集まり、「農協は守られ過ぎている!」などと真実ではないことを標榜して、規制緩和をどんどん推し進めていこうとするのです。
3.モンサント社の遺伝子組み換え作物の日本輸出の拡大推進による食料安全保障の崩壊
種(タネ)の話でいえば、公共の財産であり、多様性を守らなければなりません。
日本国民の税金により培われた「種(タネ)の知見」を、モンサントに譲り渡した場合、どうなるでしょうか?
●農業競争力強化支援法で、公的な財産である種苗の知見が民間事業者に提供されていく
●過去に日本政府や地方自治体が蓄積した遺伝子活用して開発した新品種の「特許」が、特定企業に認められていく
●公共財の種の遺伝子の権利が特定企業に移行される
●低廉な種子を供給してきた制度が廃止されて種子価格が高騰していく
●日本国内で開発された種が外国の農場に持ち込まれ、農産物が生産されて「安価な日本原産の農産物」が日本に輸入されてデフレが促進される
●日本の農家の経営が苦しくなる
●農業法人は利益追求が目的なので、日本の食料安全保障とか考える必要はなく、儲かる農産物しか作らなくなる
●国内の種子の多様性が失われて遺伝子危機の恐れが発生する
●モンサントの遺伝子組み換え作物の種子が広まり、日本固有の種子遺伝子が絶滅する(花粉の伝播は止められません!)
このようなことを考えたことがある人、国会議員を含め、少ないと思います。一部の農業関係者だけが、こうしたリスクを知り、情報発信をするわけですが、例によってルサンチマンを貯めた国民からすれば、「農協は規制に守られ過ぎている!」ということで、効く耳を持たないでしょう。こうして、日本は亡国へとまた一つ足を踏み入れてしまうのか?と思うと、やりきれなくなります。
というわけで、今日は農業競争力強化支援法成立を取り上げ、先日の種子法廃止法と合わせて意見を述べさせていただきました。
本来、議員立法でも何でも、種の知見を取り戻す法律を作るなどして守るべき話ですが、誰もそうした危機感を持っていません。
このままですと、天皇陛下の新嘗祭は、いずれモンサントの遺伝子組み換えの「稲」で行うことになるのでしょうか?私自身、それは嫌です。とはいえ、これは価値観の問題。遺伝子組み換え作物でも安ければ利益が出るのであれば何でもよいという考え方の人が居たとしても、私は賛同できないです。
食物の種を管理することは、食糧安全保障の根幹であります。食物の種もまた電波や空気や土地などと同様に、国民の財産であるため、特定企業の利益目的に使われた結果、食糧安全保障が崩壊して、食べ物のほとんどが遺伝子組み換え作物になってしまうということだけは何としても回避すべく、国会議員の方には議員立法でも何でもよいので、種を守る法律を新たに作っていただきたいと思うのであります。
- 2017.06.03 Saturday
- 日本経済(食料安全保障)
- 00:25
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- by 杉っ子