「TPPは中国包囲網だ!」と言っていた人たちの沈黙

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    JUGEMテーマ:TPP

     

     今日は、2017/5/22のロイター通信の記事、「TPP11カ国、米国抜きでの協定推進で合意 米代表は復帰否定」を取り上げます。

    記事の概要は下記の通りです。

     

    『2017/5/22 09:00[ハノイ 21日 ロイター]TPP11カ国、米国抜きでの協定推進で合意 米代表は復帰否定

     環太平洋連携協定(TPP)に参加する米国以外の11カ国は21日、ベトナムで閣僚会合を開催し、離脱した米国抜きで協定を前進させることで合意した。ただ、早期発効に向けた強い姿勢を打ち出すことはできなかった。

    会合はアジア太平洋経済協力会議(APEC)貿易相会合に合わせて開かれた。

    ニュージーランドのマクレー貿易相は「11カ国でどのように協定を進めていくかに焦点を当てている」と述べた。

    最も困難な課題のひとつは、主に米国市場へのアクセス改善のため改革を行うと表明していたベトナムとマレーシアの参加を維持することだ。

    マレーシアのムスタパ貿易産業相は「われわれの利益が引き続き保護され、協定から得られる利益がコストを上回ることを確実にする必要がある」と述べた。

    米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表は、米国がTPPに復帰することはないと言明し、域内諸国との2国間貿易協定の締結を目指す考えを示した。

    ライトハイザー代表は声明で、米国に大幅な貿易不均衡をもたらした「貿易を歪める措置」に対処する必要があると指摘。「米国の輸出市場へのアクセス拡大や不公正な貿易慣行への対応で、貿易相手国と協力することを楽しみにしている」とした。

    APEC貿易相会合では、保護主義への対抗に関する文言について米国が反対姿勢を示し、共同声明の採択は見送られた。複数の当局者によると、米国以外の20カ国・地域は自由貿易を支持し、保護主義に反対するとの文言で合意していた。

    議長国のベトナムは声明で、会合では貿易と投資の自由化推進へのコミットメントが確認されたと表明。ただ、全加盟国としては「行動声明」を発表するにとどまり、こうしたコミットメントに関する文言は盛り込ます、持続的成長、中小企業、技術的協力などに言及した。

    ライトハイザー代表は、保護主義という言葉が自由貿易の促進に本当に必要な措置と混同されていると説明。「われわれの考えは、自由貿易、公正な貿易、世界で市場の効率性を高めるシステムが必要だということだ」とした。

    ライトハイザー氏はAPEC会合に合わせ、中国、カナダ、メキシコ、日本を含む貿易相手国と会談を行った。』

     

     

     上記の通り、5/22にベトナムのハノイで、TPPの閣僚会合が開かれました。

     記事の中で、マレーシアのムスタバ貿易産業相が、米国抜きでのTPP締結に慎重な姿勢を示している様子の発言を取り上げています。

     

     日本は米国抜きの11か国のTPPの早期発効を促していますが、もともと米国との商機拡大を期待していたマレーシアから見れば、米国抜きのTPPなんて意味がありません。ムスタバ貿易産業相の「協定から得られる利益がコストを上回ることを確実にする必要がある」という発言は、まさに米国との商機拡大を期待していたことの表れで、米国抜きでのTPPの参加には否定的であると言えるでしょう。マレーシアの国益を考えれば、至極全うな考えです。ベトナムも同様の理由で、参加に慎重な姿勢を崩していません。

     

     一方、中国は米国離脱のスキを突く形で、TPP参画を視野に入れ、この会合の行方に強い関心を寄せていたとされています。とはいえ、米国抜きで中国包囲網ってなんか意味あるのでしょうか? 表題では、「TPPは中国包囲網だ!と言っていた人たちの沈黙」としていますが、この人たち、今何か発言しているでしょうか?

     

     TPPが中国包囲網だという人たち、TPPの根本を全く理解していないと言わざるを得ません。そういうレトリックを使って意見していた人は、今後TPPについては発言をしないでいただきたいと思います。

     

     なぜならば、そもそもTPPはグローバリズム(人・物・カネの移動の自由を推進する)の国際協定であって、安全保障や中国包囲網と何の関係もありませんでした。米国は安全保障に利用して通商政策を自国に有利にしようとしていましたが、もともとはグローバリズムの国際協定なのです。

     現実、米国が抜けたら、アメリカという一番の大市場が無くなってしまうのでやる意味全くなくなります。

     

     また実際にTPPの閣僚会合参加の閣僚の中には、米国の欠落を他の国で埋めるかどうかという議論もあり、中国や韓国やロシアなどが挙げられていまして、中国を含めるという発想の時点で中国に対する包囲網とか関係がないわけです。

     即ちTPP参加協議中の国々から見れば、中国の包囲網なんてどうでもよくて、人件費が安い競争力がある自国の製品を米国市場で売るために、米国への輸出を伸ばすために、それには関税は障壁であってTPPは関税をゼロにする国際協定であるから、参加したい!これが、TPP参加する国の動機です。

     

     日本国内で、TPPが中国包囲網とか、いかにもそれっぽいレトリックを使ってTPP締結を賛成していた人たちは、何にも理解していなかったのです。

     

     私は、例えば関税は国家主権であり、自国の産業を守ることは国力の維持強化に必要であると考えていまして、日本国内がデフレギャップの状態であることも考えれば、供給力を増やすあるいは日本国内での日本製品の価格が値下げ圧力がかかる可能性が高いTPPへの参加は、大反対という考えでした。

     

     安倍総理はTPPの批准を急ぎました。それがどういう意味があるか?

     正解かどうかは別として、一つの指摘として、ここで一つのルールをしっかり作っておいて、そこからは譲りません!とするために、日米貿易協定でも「TPPをベースにそこから、びた一文譲歩しません!」みたいな考え方がありました。

     とはいえ、北朝鮮危機の問題を考えれば、米国に頼らないと日本は防衛できず、トランプ大統領に防衛安全保障に利用されてしまえば、突っぱねることはできないというのが、明々白々な現実です。

     

     結局、「TPPは自由だから良いものだ!」「米国に対して貿易交渉で勝てる!」「日本製品は品質がいいから売れる!」とか結論を勝手に決めていて、ストーリーを作っていくというやりかたで、間違った判断をしてしまっているのです。

     

     このTPP、はっきり言ってやりたがっているのは日本とオーストラリアとニュージーランドだけです。

     他国は「米国が抜けるならいいや!」となっているわけなので、どうしてもTPPをやるというのであれば、3か国貿易協定(もはや3か国のみでは環太平洋協定(=TPP)と言えないような気がしますが・・・)に換えた方が現実的です。

     

     というわけで、今日は5/22にベトナムのハノイで開催されたTPP閣僚会合について取り上げ、米国抜きのTPPに揺れているアジア諸国の現状をお伝えしました。

     実際に、マレーシアやベトナムは米国の市場を期待してTPP参加を検討したわけですが、米国抜きではTPPの意味はありません。カナダやメキシコは、NAFTA(北米貿易自由協定)の再交渉でトランプ大統領とバタバタしていますので、TPPなんてどうでもよくなっているという現状もあります。

     現実的にアジア諸国の中には、中国韓国ロシアを入れるべきであるという意見もあり、日本国内で中国包囲網とか言っていた人たちの沈黙は、TPPのことを全く理解せず論説していたことの証左であると言えるのです。


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