「株式持ち合い」は本当に悪いことなのか?

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     今日はコーポレートガバナンスについて意見したく、”「株式持ち合い」は本当に悪いことなのか?”と題し、論説します。

     

     昨年2017/08/16に、トヨタ自動車がマツダと株式を500億円持ち合うというニュースが日本経済新聞で報じられました。まずはこのニュースの記事をご紹介します。

     

    『日本経済新聞 2017/08/16 16:34 トヨタとマツダの「持ち合い」

    トヨタ自動車マツダが資本業務提携で合意したと発表したその日、旧知の海外投資家から1通のメールが届いた。

    業務提携は解るが何故500億円の同額の株式持ち合いが必要なのか。アベノミクスでは、コーポレートガバナンス強化のため持ち合い株は削減する方針ではなかったのか。トヨタがマツダ株を5%持つということは、マツダにとっては安定株主が増え、トヨタにとってはマツダを系列化したという意味か」と畳み掛けるような論調である。

     慌てて両社の発表文を読むと「両社の長期的なパートナー関係の発展・強化を目指すとともに、両社の対等、かつ独立性を維持した継続性のある協業を追求する」ことが目的であるとしている。また、出資金の資金使途は、それぞれが米国での生産合弁会社の設備投資資金に充てるという。記者会見でもまず株式持ち合いの意味が問われ「持続性を持った協力関係を構築するための資本提携」と両社長は答えている。

     株式持ち合いには常々、資本の空洞化、株主による経営監視機能の形骸化、企業統治の弱体化などの問題が指摘され、コーポレートガバナンス・コードの議論でも、株主の実質的な平等性の視点から、その弊害が強調されている。また、日本再興戦略に基づき、スチュワードシップ・コードでは機関投資家に「対話を通じた企業の中長期的な成長を促すこと」を求めている。株式持ち合いはこうした活動を空洞化する。

     とりあえず、発表文や記者会見の模様に沿って返信すると、直ちに「日本は系列や株式持ち合いは経済の発展にとってマイナスだと宣言したのではなかったのか。株の持ち合いは日本にしかない慣行で、他の株主の権利を毀損する行為だ。資金使途は互いの株の持ち合いじゃないか。株の持ち合いで希薄化を生じさせるのはおかしい」との返信。その後も提携の全体像を見て判断すべきだなど、何度かメールをやり取りしたが、一向に納得することはなかった。

     ようやく夕食の席につくと妻からの質問。「ねぇ、テレビで見たけど、トヨタとマツダの提携ってなんでお互いに株を持つの?」

     きっと日本を変えるのは外国人と女性に違いない。つくづくそう思えた夕げであった。(万年青)』

     

     

     上記の記事がもとになったのは、2017/08/04に報道されたトヨタ自動車とマツダの500億円の資本提携発表の記事がもとになっています。それを受けて、日本経済新聞社は、この資本提携のための株式持ち合いについて、ネガティブに報じています。赤字で書いている部分が、まさにネガティブな論説です。

     

     このネガティブな論説について反論させていただきます。

     

     私はこの持ち合いは、中長期的に日本の国益を考えた場合、正しいと考えます。

     

     株式の持ち合いが資本の空洞化につながるとの指摘は、そもそもどういうことかといいますと、持ち合った株式は売らないことが大前提になります。

     

     このため、業績が振るわなくなって一株当たり利益が減少するなどして株価が下がったとしても、持ち合われている分の株式は売られないということで売り圧力が、持ち合う場合と持ち合わない場合とで比較して相対的に低いということです。

     

     株主総会で会社側の提案が通りやすくなることもあり、経営に失敗した取締役が選任されて高額報酬を手にするという指摘もあります。

     

     この株式の持ち合いというのは、いつから始まったか?と言いますと、財閥の持ち株会社が様々な株式を保有していた過去があり、戦後にGHQが財閥解体を命じています。財閥の力が軍国主義の背景の一つとGHQは考えていたのです。この財閥解体で放出される株式の受け皿として、政府や証券業界が株式保有を促進し、証券民主化運動の流れで、個人の持ち株も増えていきました。1949年には69%にまで個人の持ち株比率が高まったとされています。

     

     その後、日本企業への投資の自由化があり、外資による日本企業の買収の脅威が浮上し、企業がその対応策として売らないことを前提とした株式持ち合いを始めたのです。1990年代以降バブル崩壊で、持ち合い株で損失が発生し、財務改善のために持ち合い株式が解消されてきたという経緯を辿って今日に至っています。

     

     2000年代に入りデフレ期に突入すると企業業績が伸び悩み、また海外企業と比べて稼げなくなったとされて、コーポレート・ガバナンスの在り方というのが、経済産業省を中心に探ってきました。

     

     ガバナンス強化という観点からは株式の持ち合いはよろしくないとされているわけですが、その理由は株式持ち合いによって業績が振るわなくなっても売り圧力が弱まるので緊張感が和らぎ、経営への規律が整わなくなるとしています。

     

     昨今では、半導体のDRAM専業のエルピーダメモリー、軍事で使われるフラットパネルディスプレイを製造するシャープ、原子力発電所プラントの技術を持つ東芝といった国力を担っている企業が、デフレに苦しみ、経営破たんや外資に株が買われるといった事態が発生しています。

     

     シャープでいえば鴻海は台湾企業だから大丈夫なのでは?という意見を持つ方もいるかもしれませんが、台湾もまた人の移動の自由などの理由で中国人が入り込んでおり、鴻海は中国企業であるとも言われています。日本以外の国の企業に買われるとすれば、仮にアメリカの企業に買われたとしても、その後経営不振で中国企業に買われてしまうということなど、普通にあり得る話です。

     

     何がいいたいかと言えば、マツダは経営が苦しい時期がありました。トヨタとマツダが提携して助け合って、今後進展するであろうEVなどでの投資を一緒にやっていくというのは、決して悪いことではなく、むしろそのために持ち合うというのはよいことであると私は思うのです。あまり想定したくないですが、マツダが経営状態が悪くなったとして、エンジンに技術力があるマツダが外資に買われるとすれば、それは国力の毀損です。それを民間企業であるトヨタが救済しやすくなるという側面があると考えております。

     

     また株の持ち合いが少数株主の権利を希薄化して毀損するとのことですが、今回のトヨタとマツダの資本移動をみますと、マツダに対しては正しいかもしれません。下記はトヨタとマツダのそれぞれの資本移動の状況です。

     

    <2018/03/25時点のトヨタ自動車(証券コード:7203)の資本移動の状況>

     

    <2018/03/25時点のマツダ(証券コード:7261)の資本移動の状況>

     

     上記のうち、マツダの資本移動で、2017年10月に「三社3192万株(1566円)」という表記があります。これは第三者割当増資によって1,566円で31,920千株の株式を新たに発行したということを意味します。

     

     1,566円×31,920千株=49,968,720千円≒50,000百万円=500億円です。

     

     では、トヨタ自動車はなぜ資本移動にその表記がないかといいますと、これは自己株式を原資にしていると報道されています。商法改正で金庫株ができるようになってから、上場企業は自社株買いをした後、いったん金庫株として自己株式とします。自己株式はそのまま金庫株とするか償却するかという選択肢があります。

     

     償却した場合、発行済み株式数が減少する結果、一株当たり利益が上昇しますので、株式の理論価値が上昇します。一方で金庫株の場合は、将来、金庫株を公募で売り出して資金調達したり、M&Aで買収する際の株式交換で使うなどすることができます。昔は企業を買収する場合はキャッシュでしかできなかったのですが、自己株式を対価として買収することが可能になったのです。

     

     自社株買いをするケースとしては、デフレで投資できる環境にないと判断する経営者が、株価が低迷しているときに余ったキャッシュを使って自社株買いをしたりします。自社株買いをして金庫株にしておけば、償却はいつでも可能ですし、いざM&Aが必要ともなれば、金庫株にしている自己株式を株式交換で対価として使うことも可能です。

     

     設備投資しても儲かりにくいデフレ環境においては、設備投資するくらいなら安くなっている自社株を買っておこうとするのは、株主にとってもメリットがあるので悪くない資本政策です。

     

     少し話を戻しまして、トヨタ自動車の場合は、マツダのように新株発行せず、自社株買いをした株式をマツダに特定して500億円分の株式を放出したということが、マツダの資本移動とを見比べてみればわかります。金庫株にしている自己株式をマツダに放出するというファイナンス手法では、発行済み株式数の増減はありませんので、資本移動が発生しないのです。

     

     株式の希薄化とは、企業が資金調達する際、銀行借入や社債発行などの負債勘定による資金調達(デットファイナンス)ではなく、株式発行を伴う自己資本勘定による資金調達(エクイティファイナンス)を実施した場合に起こる事象です。発行済み株式が増えることで、一株当たり利益が減少しますので、それまで保有していた株主からみると、価値が毀損しているということになります。

     

     マツダの場合は希薄化するというのは正しいですが、トヨタ自動車の場合は希薄化も何もありません。確かにマツダの既存の株主にとっては一人当たり利益が減少する点では希薄化というデメリットが出ます。とはいえ、マツダが単独でEVのための投資ができるのか?研究開発費をねん出できるのか?と考えた場合、世界トップのトヨタと提携することは、それなりにメリットがあるとも考えられ、肯定できる提携だと思うのです。

     

     

     というわけで昨年の夏に報道されたトヨタ自動車とマツダの500億円の資本提携について紹介し、株式持ち合いについて私見を述べさせていただきました。コーポレート・ガバナンスという経済産業省の作成する教科書でいえば、株式持ち合いは悪いことなのかもしれません。とはいえ経済産業省が、デフレを放置していることこそが企業業績不振の真因であることに気付かない限り、間違えた教科書を作り続けることになるでしょう。国力強化と技術力・ノウハウの品質向上、技能継承を考えた場合、外資に買われても自己責任とか、市場に委ねるのが正しいなどと、株式持ち合いは悪であるとする論説が正しいとは、私には全く思えないのです。


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